“M”の、その先へ – BMW Mモデル進化の全貌

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BMW Mシリーズ。そのアルファベット一文字は、速さを求める者にとっての究極の称号である。M3、M4、M5…これらの名車は公道を走れる車としては頂点に達したかのように思われる。しかし、世の中には「Mですら物足りない」と感じる、業の深いスピード狂たちが存在する。BMW M社は、そんな愛すべき狂人たちのために、Mの先にある底なしの深淵を用意している。

目次

第一形態進化:Competition(コンペティション)

BMW Mモデルの最初の進化形態が「Competition(コンペティション)」である。その名の通り、ベースとなるMモデルをさらに戦うためのマシンへと進化させた存在だ。

例えるなら:ベースのMモデルが厳しい訓練を乗り越えた「エリート兵士」だとすれば、Competitionはそのエリート兵士の中からさらに選抜され、特別な訓練を施された「特殊部隊員」である。

強化メニュー①:エンジン出力の向上

BMW M社のエンジニアたちが、ベースのMエンジンにさらに魂を込めてチューニングを施す。ブーストアップなどの手法により、数十馬力のパワーが上乗せされる。このレベルの戦いでは、たかが数十馬力の差が勝敗を分ける重要な要素となる。

強化メニュー②:シャシー・足回りの強化

増大したパワーを確実に路面に伝えるため、サスペンションのスプリングやダンパーがより硬く締め上げられる。これにより車全体の動きがよりダイレクトでシャープになり、特殊部隊員に研ぎ澄まされた肉体が必要なのと同様の効果を発揮する。

強化メニュー③:専用外装(ピアノブラック)

Competitionモデルは、その証として特別な「戦闘服」を身に纏う。キドニーグリル、ミラーキャップ、マフラー出口などがギラついた光沢のあるピアノブラックで統一される。一目でこの車がただのMではない「ヤバい奴」だと分かる威圧感を放つ。

失われるもの:マニュアルトランスミッション

しかし、この特殊部隊員への進化には一つだけ失うものがある。それは「マニュアルトランスミッション」だ。現代の進化したオートマチックトランスミッションの方が、人間が操作するよりもコンマ1秒でも速く変速できる。「速さこそが正義」というCompetitionの哲学の前では、人間の操作が入り込む余地はないのかもしれない。

第二形態進化:CS(Competition Sport)

公道での快適性など知ったことかと豪語し、サーキットという戦場のみを見据える選ばれし狂人たちのための第二形態進化、それが「CS(Competition Sport)」である。

例えるなら:Competitionが「特殊部隊」だとすれば、CSはその存在すら公にされない、非合法作戦も厭わない「ブラックオプス」である。

最重要任務:徹底的な軽量化

CSモデルが睨んでいるのはただ一つ、「サーキット」でのラップタイムだけである。その絶対的な結果を出すため、CSモデルに課せられる最も重要な任務は「徹底的な軽量化」だ。速さの最大の敵は重さだからである。

カーボンファイバーの活用

CSモデルは、まるで悪魔に魂を売るように、ボディのありとあらゆる部分を鉄からより軽い素材へと置き換えていく。その禁断の素材こそが「カーボンファイバー」である。

  • ボンネット:カーボンファイバー製
  • ルーフ:カーボンファイバー製
  • フロントスプリッター:カーボンファイバー製
  • リアスポイラー:カーボンファイバー製

例えばM5 CSでは、快適な後部座席を全て取り払い、代わりにカーボン製バケットシートを二つだけ配置するという狂気の仕様となっている。

サーキット専用セッティング

  • エンジン:Competitionからさらに数馬力を最後の最後まで絞り出す
  • 足回り:サーキット走行を前提としたガチガチの専用セッティング
  • タイヤ:公道では雨の日にツルツル滑りそうな、ほぼスリックタイヤに近いハイグリップタイヤが標準

限定生産の意味

CSは誰でも買えるわけではない。その存在の証として「限定生産」となっており、選ばれた者だけが手にすることを許される特別な存在である。

最終形態進化:CSL(Competition Sport Lightweight)

BMW Mの深淵、その最深部には、選ばれた狂人の中のさらに選ばれた者だけがたどり着ける孤高の玉座がある。その玉座に刻まれた神聖にして伝説の称号が「CSL」である。

歴史的背景:E46 M3 CSL

かつて、CSLは「Coupe Sport Lightweight」を意味していた。その伝説を不動のものにしたのがE46型のM3 CSLである。

  • 屋根:カーボンファイバー製
  • トランクの床:圧縮されたボール紙製
  • ラジオ・エアコン:標準では非装備(無料オプション)
  • カーボン製エアボックス:F1カーそのものの吸気音「ゴォォォ!」

「快適装備は罪」という思想の下、速さの前では一切の妥協を許さない姿勢が貫かれていた。

現代のCSL:M4 CSL

現在のCSLは「Competition Sport Lightweight」の略となり、その意味はさらに過激に進化した。もはやただのクーペではなく、特殊部隊員である「Competition」をさらにサーキット用に「Sport」させ、極限まで「軽くする」ことが使命となっている。

驚異の軽量化達成

  • M4 Competitionから100kg以上の軽量化を実現
  • 後部座席:当然のように取り払われている
  • ニュルブルクリンク:当時のBMW量産車最速ラップを記録

不変の哲学:軽さこそ正義

時代は変わっても、意味は進化しても、CSLの魂は決して変わらない。「軽さこそが正義」。これこそが、BMW M社がレースの世界で学んだ絶対の真理なのである。

棲む世界を変える者たち

これらは単なるグレードの違いではない。Mという一つの生命体がその戦闘力を高め、その「棲む世界」を次々と変えていく過激な進化の過程そのものである。

M → Competition → CS → CSL

この進化の物語が示すのは、究極を求める人間の飽くなき探求心と、それに応えるBMW M社のエンジニアリングの凄さである。快適性を捨て、常識を超え、ただひたすらに速さを追求する。そこにこそ、真の「駆けぬける歓び」が存在するのかもしれない。

あなたは、どのMの世界に足を踏み入れてみたいだろうか。

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