最近の電気自動車(EV)は、テスラやヒョンデ「IONIQ 5」のように、未来的で広々としたデザインが特徴です。
しかし、BMWのEV「i4」などを見ると、なんだか普通のガソリン車と変わらないように見える…そう感じたことはありませんか?後部座席の床に「出っ張り」があったり、EV専用設計ではないのでは?と疑問に思う方もいるかもしれません。
この一見すると“中途半端”に見えるBMWのEV戦略には、実は奥深い哲学と、したたかな「生存戦略」が隠されています。
今回は、BMWがテスラとは違う道を選んだ理由と、その天才的な戦略について徹底的に解説します。
1. EV専用設計の”正解”とは?
まず、テスラやヒョンデが採用している「EV専用設計」のメリットを理解しましょう。彼らのEVは、「スケートボード・プラットフォーム」という考え方を採用しています。これは、薄くて平らな車台にバッテリーを敷き詰め、その上に自由にボディを載せるという設計です。
このシンプルな構造は、以下のようなメリットをもたらします。
- 広大な室内空間: エンジンやプロペラシャフトがないため、床を完全に平らにでき、室内が広くなります。
- 異次元の運動性能: 重いバッテリーを床下に敷き詰めることで、重心が極限まで低くなり、驚くほど安定した走りを実現します。
- 革新的なデザイン: 大きなエンジンの制約がないため、デザイナーはより自由な発想で、未来的なデザインを追求できます。
多くのメーカーがこの「EV専用設計」こそがEVの”正解”だと考えています。では、なぜBMWはあえてこの道を選ばなかったのでしょうか?
2. BMWの”もう一つの答え”「パワー・オブ・チョイス」
BMWが出したもう一つの答え、それが「パワー・オブ・チョイス」(選択する力)という戦略です。
BMWは、「CLARプラットフォーム」という一つの土台で、ガソリン、ディーゼル、プラグインハイブリッド、そしてEVの全てに対応できる車を製造しています。つまり、同じモデルでも、顧客のニーズに合わせて様々なパワートレインを選択できるのです。
「お客様、あなたはどんな”力”を選びますか?」
この哲学は、充電インフラが未整備な地域や、自宅に充電設備を置けない人々など、多様化する世界のニーズに応えるための、BMWなりの誠実な答えなのです。
3. それは”妥協”か、”したたかさ”か?
「EV専用設計に乗り遅れたただの言い訳では?」
そう思う人もいるかもしれません。確かに、「EV」という単一の物差しで見れば、BMWの戦略は”妥協”に見えるかもしれません。しかし、これはBMWの驚くべき”したたかさ”の現れです。
BMWは、テスラのような新興企業とは異なり、100年以上の歴史を背負い、世界中のあらゆる顧客と向き合ってきました。その歴史と責任が、「誰も置き去りにしない」というBMWの哲学を形成しています。
- ガソリン車が最適な人には、最高のガソリン車を。
- EVに乗れる環境が整った人には、最高のEVを。
この「パワー・オブ・チョイス」は、混沌としたエネルギーの過渡期を、誰一人取り残さずに乗り越えようとする、BMWの現実的で誠実な生存戦略なのです。
4. 魂は自ら作る~自社製モーターの秘密~
「プラットフォームが同じなら、EVとしての性能は中途半端なのでは?」
そうした批判に対し、BMWはEVの「魂」であるモーターを自社で開発・製造することで応えています。
多くの自動車メーカーがモーターを外部から調達する中、BMWは「シルキーシックス(BMWの直列6気筒エンジン)」を生み出した時と同じように、自分たちの手で動力源を作り上げることにこだわりました。
さらに驚くべきは、その自社製モーターがレアアースを一切使用していない点です。これは、環境への配慮と、特定の国からの資源供給リスクを回避するという、BMWの未来を見据えた独立した精神の証です。
「ドンガラ流用の中途半端なEV」という批判に対し、この自社製モーターは最も雄弁な反論であり、BMWの”妥協しない”姿勢を示しています。
結論:革命家と、現実主義者
テスラがEVによって自動車業界を「革命」しようとする革命家だとすれば、BMWは多様な顧客を置き去りにしない現実主義者と言えるでしょう。
どちらが優れているという単純な話ではありません。これは、テスラとBMWという二つの巨人の「哲学の違い」の物語です。BMWは、未来を見据えながらも、目の前の”現実”に真摯に向き合い、最高の駆けぬける歓びを提供し続けているのです。
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