最近、街中で青・紫・赤の3色からなる「M」のエンブレムをつけたBMWをよく見かけるようになりました。
「あのエンブレムは、なんだか特別そう…」
そう感じている方は多いのではないでしょうか。かつて「M」のエンブレムは、選ばれた人しか手にできない、圧倒的なパフォーマンスを象徴するものでした。しかし、今では様々なモデルにその姿を見かけます。
実は、この「M」のエンブレムには、**3つの異なる「階級」**が存在するのです。
このブログ記事では、BMWの「M」にまつわる真実と、そこに隠された「大人の事情」について、BMWファンを長年ざわつかせてきた謎を徹底的に解き明かします。
1. そもそも「M」とは何か?~Motorsportの血統~
BMWの「M」は、単なる速い車の記号ではありません。その正体は「Motorsport」の頭文字です。
BMWには、私たちが普段乗る乗用車を製造する本体とは別に、レースで勝つためだけに設立された特別な子会社「BMW M社」が存在します。彼らは、サーキットでライバルを打ち負かすための戦闘集団。そして、昔のレースには「市販車をベースにすること」という重要なルールがあったため、M社はまず公道を走れるレーシングカー、すなわち”本物”の「Mモデル」を世に送り出す必要がありました。
エンジン、ボディ、サスペンション、ブレーキ…そのすべてが、一般のBMWとは全くの別物。それが、昔から車好きを魅了してやまない、本物の「Mモデル」の正体なのです。
2. 今、街で見る「3つのM」の正体とは?
では、なぜ今、街にはこれほど多くの「M」のエンブレムが溢れているのでしょうか?
それは、BMWが「M」を3つの異なる階級に分類したからです。その意味と価値は、天と地ほども違います。
① M Sport(Mスポーツ) あなたが最もよく目にする「M」が、これです。その正体は「”Mモデル風”の見た目になれるオプション装備」。
これは、通常のBMWにオプションとして追加できるドレスアップパッケージです。アグレッシブなバンパーやMマーク付きのハンドルなど、内外装の雰囲気をスポーティにするのが主な目的です。エンジンや中身は、基本的にベースモデルと同じです。
② M Performance(Mパフォーマンス) 「Mスポーツ」と「本物のMモデル」の中間に位置する高性能モデルです。
見た目だけでなく、中身にもM社の手が加えられています。エンジンはノーマルモデルよりもパワフルにチューンアップされ、ブレーキや足回りも強化されています。たとえば「M340i」や「M240i」といったモデルがこれに該当し、「ちょっと速くて、カッコいい車が欲しい」というニーズに応えるために生まれました。
③ M Model(Mモデル) そして、これが全ての頂点にして、正真正銘の**”本物”のM**です。
M3、M4、M5、M8…これらの車は、MスポーツやMパフォーマンスとは次元が全く違います。エンジン、ボディ、サスペンション、ブレーキなど、ほとんど全ての部品がM社によって専用に設計されています。外見は似ていても、中身は全くの別物。サーキットを速く走るためだけに生まれた、公道最速の戦闘マシンなのです。
3. なぜ複雑にした?メーカーの”本音”とファンの”本音”
「M」を3種類に増やした理由は、ビジネス的な「大人の事情」にあります。
- ブランド価値の最大化: 何百万円もするMモデルは、ごく一部の人にしか買えません。そこで、「Mスポーツ」というオプションを用意することで、「M」の持つスポーティなイメージをより多くの人に届け、全体の販売台数を増やそうと考えたのです。
- 時代のニーズへの対応: 「本物のMほど過激な性能は必要ないが、ノーマルよりは速い車が欲しい」という顧客層の巨大なニーズに応えるために、「Mパフォーマンス」という完璧な選択肢を提供しました。
この戦略は見事に成功し、BMWは販売台数を大きく伸ばしました。
しかし、この「大正解」な戦略は、昔からの熱心なファンの心を少しざわつかせました。かつては特別な存在だった「M」のエンブレムが、広く普及することで、「魂の安売りではないのか?」という複雑な気持ちを抱くファンもいるのです。
まとめ:それでも「M」は特別な存在であり続ける
ビジネスとして成功した戦略は、ときに賛否両論を呼びます。しかし、どれだけMスポーツが増えようと、本物の「Mモデル」が放つ圧倒的なオーラと価値は、決して揺らぐことはありません。
BMWは、Mへの「憧れの道筋」を新しく作ってくれたのです。まず「Mスポーツ」でMの世界に足を踏み入れ、次に「Mパフォーマンス」でその深さを知り、そしていつか人生の目標として「Mモデル」を目指す。
この3つの「M」は、ブランドの安売りではなく、より多くの人に「駆けぬける歓び」の様々なステージを味わってもらうための、BMWなりの「進化」の形と言えるでしょう。
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